おすすめの科学本

2024/04/12

『神羅万象 我々はどこから来て、どこへ行くのか』

福岡 伸一(ふくおかしんいち)


 著者は現在、青山学院大学教授・米国ロックフェラー大学客員教授の生物学者です。福岡氏の過去の著書『生物と無生物のあいだ』はサントリー学芸賞と新書大賞を受賞した大ベストセラーです。

 新著『神羅万象 我々はどこから来て、どこへ行くのか』は以下の四章から構成されています:(1)“いのち”とは何か?~「動的平衡」でみる生命の流転~、(2)人間の知らない“生物の美しき多様性”、(3)DNA研究は新たなステージへ~人類の起源を巡る旅~、(4)フクオカ少年と未知の世界への扉。

 全章を通して「生命とはなにか」、「生物はなぜ死ぬのか」といった私たちの持つ素朴な疑問に対する答が、いろいろな形で述べられています。生物に対する考え方は、以前の著書 『動的平衡 [1] 生命はなぜそこに宿るのか』(木楽舎)と同じ“生命の流転”に基づきます。生物とは、“厳しい自然の掟に翻弄されながら命を繋いでいく生き物”としてとらえられています。しかし、人間だけは、「遺伝子操作」をはじめいろいろな技術を次々に開発し、“自然の掟”に抵抗しようとしていると著者は考えています。

 随所に生物の多様性と不思議さが紹介されていて、納得する箇所や感動する箇所が沢山あります。各章とも短編のエッセイから構成されているのでどこから読んでも気軽に楽しめます。


(紹介者:友清)   専門: 材料科学、電子顕微鏡法



〜この本を探すには〜

扶桑社『神羅万象 我々はどこから来て、どこへ行くのか』

発行年月日:2023/11/02 

ISBN-10:4594096220 

ISBN-13:978-4594096229

2023/11/07

『星三百六十五夜』

野尻 抱影(のじり ほうえい)


 野尻抱影(1885-1977)は英文学者であり、星空を愛し生涯その魅力を世の人々に語り続けました。星座の神話・伝説の紹介、日本固有の星の名前の収集、また「冥王星」の和訳命名者としても知られています。

 本書の初版は1956年に中央公論社から出版されました。その『あとがき』には「終戦の秋のやりどころのない感情をようやく星に向けて、夜・昼書き続けた随筆集である。」と記されています。365夜、その月日の星座や星に向き合った著者自身の経験や古今東西の詩文が美しい日本語で綴られています。表紙や各月の扉にある星座の絵は野間仁根画伯によるもので、個性的で温かく大変魅力的なものです。

 1960年以降、恒星社厚生閣から幾度か再版され、その過程で内容の一部は新稿と差し替えられ、また常用漢字、新カナ遣いに改められ読みやすくなりました。

 著者は天文学者ではなく、一天文愛好家つまりアマチュアですが、常に科学的知見に立脚して自ら実際に星空を仰ぎ星座の動きを追い、また時には自身の天体望遠鏡、愛称“ロング・トム”を使って観察した事象をひとつひとつ丁寧に、星々への愛をもって綴っているので、今日の私たちにとって天文学そして星空に親しむための入門書として大変お勧めの本です。

 現在入手しやすいのは2022年の中央公論新社版で、『春・夏編』と『秋・冬編』の2分冊となっています。初版以降の旧版も公共図書館に所蔵されているので、それらも読まれて内容の変遷を辿ってみると、より深く“抱影ワールド”に惹きこまれていくものと思います。 


(紹介者:三島)



〜この本を探すには〜

中央公論新社『星三百六十五夜』春・夏

発行年月日:2022/04/25

ISBN-10:4120055337

ISBN-13:9784120055331


中央公論新社『星三百六十五夜』秋・冬

発行年月日:2022/04/25

ISBN-10:4120055345

ISBN-13:9784120055348